はじめに:信託は身近な資産活用の仕組み
信託と聞くと、なんだか難しそうに感じるかもしれません。しかし、信託とは特定の目的のために、自分の財産を信頼できる人に託し、管理・運用してもらう、非常に身近で便利な制度です。この記事では、信託法と不動産信託の基本、そしてそのメリットについて、初心者の方にも分かりやすく解説します。
1. 信託法の基本を理解する:3つの登場人物
信託法は、信託に関する基本的なルールを定めた日本の法律です。この法律は、信託財産の保護や円滑な信託の運営を目的としています。信託の仕組みを理解する上で重要なのは、「委託者」「受託者」「受益者」という3つの登場人物です。
- 委託者: 自身の財産を信託する人です。財産を託すことから、信託の始まりを担います。
- 受託者: 委託者から託された財産を、信託の目的に従って管理・運用する人です。受託者には、財産を忠実に管理する義務があります。
- 受益者: 信託された財産から生じる利益を受け取る人です。
2. 不動産信託とは?その仕組みとメリット
不動産信託は、信託財産が不動産である信託契約を指します。具体的には、不動産の所有者である「委託者」が、信頼できる「受託者」に不動産の名義を移転し、その管理・運用を任せます。受託者は、信託契約で定められた目的に従って不動産を管理し、賃料収入や売却益などの利益を「受益者」に分配します。
不動産信託には、以下のようなメリットがあります。
- 効率的な資産管理: 不動産の専門家である信託会社などが受託者となることで、賃貸管理や修繕、売却といった専門的な業務を効率的に行い、不動産価値の維持・向上を図ることができます。
- 円滑な相続対策: 不動産の所有権は分割が難しいですが、不動産信託を利用すれば、不動産そのものではなく、受益権を分割して相続させることができます。これにより、不動産の共有に伴うトラブルを未然に防ぐことが可能です。
- 高い安全性(倒産隔離機能): 信託された不動産は、受託者の固有財産とは区別されます。そのため、万が一受託者が倒産しても、その債権者から差し押さえられることはありません。
- 流動性の向上: 不動産は売却に時間がかかりますが、信託受益権は小口化しやすく、譲渡も比較的容易であるため、資産の流動性を高めることができます。
3. 不動産M&Aと不動産信託の活用事例
不動産M&Aにおいても、不動産信託は重要な手法の一つです。収益性の高い不動産を信託受益権の形で譲渡することで、不動産の所有権そのものを移転する場合に比べて、登記手続きの手間や税金を軽減できる場合があります。
このように、不動産信託は、資産の効率的な管理、相続対策、そして不動産M&Aといった多様なシーンで有効な選択肢となります。不動産に関するお悩みや、M&A・事業承継を検討されている方は、不動産信託の活用について専門家へ相談してみることをお勧めします。
投稿者プロフィール

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シニアアドバイザー
大阪大学大学院博士前期課程修了、地方銀行に約10年間勤務し法人営業部門にて不動産融資等を担当。
その後、不動産仲介・コンサルティング業を行う法人を設立し、代表取締役に就任して不動産仲介、財務コンサルティング業務を行う。
宅地建物取引士
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