不動産M&Aにおける企業価値評価のポイント
不動産M&Aをご検討されているオーナー様、あるいは将来的な選択肢として情報収集されているオーナー様にとって、「自分の会社がいくらで売れるのか」は最も重要な関心事の一つでしょう。しかし、不動産を保有する法人の売却価格は、通常の不動産売買とは異なり、単に不動産の時価だけで決まるわけではありません。
売却価格のベースとなるのは、その会社の「株価」、すなわち「企業価値」です。この企業価値がどのように評価され、何が評価額を左右するのかを理解することは、オーナー様が有利な条件でM&Aを成功させる上で非常に重要になります。
不動産M&Aにおける「株価(企業価値)」とは?
一般的な企業M&Aと同様に、不動産M&Aにおいても、買い手は不動産を保有する「会社そのもの」を取得します。そのため、評価の対象となるのは、会社が保有する不動産だけでなく、現金預金、借入金、簿外債務、将来の収益性、さらにはブランド力や人材といった無形資産まで、会社が持つすべての価値です。
そして、この企業価値から有利子負債などを差し引いたものが、株主にとっての価値、つまり「株式価値」となります。不動産M&Aの対価は、原則としてこの株式価値に基づいて算出されます。
不動産保有法人の企業価値評価で用いられる主な手法
企業価値を評価する方法には、主に以下の3つのアプローチがあります。
- コストアプローチ(純資産方式)
- 概要: 会社の貸借対照表(バランスシート)上の資産から負債を差し引いた「純資産」をベースに評価する方法です。特に、不動産など具体的な資産を多く保有する法人で用いられます。
- 不動産M&Aでのポイント: 簿価ではなく、時価(現在の市場価値)に評価し直した純資産で評価することが一般的です。これにより、不動産の含み益などが適切に評価に反映されます。
- メリット: 客観性が高く、比較的評価しやすい。
- デメリット: 将来の収益性やブランド力といった無形資産が反映されにくい。
- インカムアプローチ(収益還元方式、DCF法など)
- 概要: 会社が将来生み出すと期待される収益やキャッシュフローを予測し、それを現在価値に割り引いて評価する方法です。
- 不動産M&Aでのポイント: 不動産事業が安定した収益を生み出している場合(賃貸事業など)に有効です。具体的には、不動産が生み出す賃料収入や、売却によって得られると期待される利益を基に評価します。
- メリット: 将来性や収益性を評価に反映できる。
- デメリット: 将来の予測に基づいているため、前提条件によって評価額が大きく変動する可能性がある。
- マーケットアプローチ(類似会社比較方式など)
- 概要: 株式市場に上場している類似業種の企業や、過去のM&A事例を参考に評価する方法です。
- 不動産M&Aでのポイント: 規模や事業内容が類似する不動産会社のM&A事例や、不動産投資信託(REIT)などの指標が参考にされることがあります。
- メリット: 市場の動向や客観的な情報に基づいているため、比較的分かりやすい。
- デメリット: 完全に同じ状況の比較対象を見つけるのが難しい場合がある。
これら3つのアプローチは、状況に応じて単独で用いられたり、複数を組み合わせて多角的に評価されたりします。不動産M&Aにおいては、特に純資産方式と収益還元方式が重要視される傾向にあります。
不動産保有法人ならではの評価の特殊性
不動産を保有する法人の企業価値評価には、いくつかの特殊性があります。
- 不動産の含み損益: 帳簿価格と時価が大きく乖離している不動産は、評価に大きな影響を与えます。不動産の時価評価は必須です。
- 賃貸契約の内容: 賃貸収入がある場合、賃貸契約の内容(賃料、契約期間、空室率、入居者の信用力など)が収益性に直結するため、詳細に評価されます。
- 担保・保証: 不動産に設定されている担保や、法人が負っている保証債務なども負債として考慮されます。
- 事業性評価: 単なる不動産賃貸業か、開発事業も行っているかなど、事業内容によって評価アプローチが変わることがあります。
- 税務上の課題: M&A後の税務処理や、法人が過去に享受してきた税制優遇なども評価に影響を与えることがあります。
オーナー様が企業価値を高めるためにできること
不動産M&Aにおいて、ご自身の不動産法人の企業価値を最大限に高めるためには、日頃からの準備が重要です。
- 不動産の価値を適切に把握する: 定期的な不動産評価を実施し、含み損益を把握しておくことが大切です。必要であれば、不動産鑑定士に評価を依頼することも検討しましょう。
- 財務状況を健全に保つ: 無駄な経費を削減し、収益性を高める努力をしましょう。また、不要な資産は処分し、負債もできる限り削減することで、純資産価値を高められます。
- 賃貸ポートフォリオの最適化: 賃貸事業を行っている場合、安定した収益を生む優良なテナント誘致、適切な賃料設定、空室率の低減などが評価に直結します。
- 契約・法務リスクの管理: 賃貸契約書や各種許認可、訴訟リスクなど、法務面での問題がないか定期的に確認し、リスクを低減しておくことが重要です。
- デューデリジェンスに備える: 買い手は必ずデューデリジェンス(詳細調査)を行います。日頃から正確な帳簿を作成し、適切な情報開示ができるよう準備しておきましょう。
- 専門家との連携: 不動産M&Aは専門性が高く、法務、税務、不動産評価など多岐にわたる知識が必要です。早い段階で不動産M&Aの専門家にご相談いただくことで、最適な戦略を立て、円滑なM&Aを実現できます。
不動産M&Aパートナーズ株式会社では、不動産を保有する法人の企業価値評価から、最適なM&A戦略の立案、買い手探索、そしてクロージングまで、一貫したサポートを提供しています。
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投稿者プロフィール

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執行役員 COO
関西大学卒業後、大手不動産仲介会社にて不動産仲介業務を経験、その後一般事業法人の不動産部門にて収益物件の購入、開発、管理等を担当。
また不動産ファンドでのファンド運営にかかわり、ゲームソフト会社の関連不動産会社の代表を経験。自身でも不動産管理会社、不動産仲介会社を経営するなど不動産に関する業務全般に精通。
宅地建物取引士 / 公認不動産コンサルティングマスター / 関西大学不動産会副幹事長