役員退職金は、会社にとって重要な節税対策であり、役員個人にとっても税制上の優遇措置を受けられるメリットがあります。しかし、その金額や手続きには「適正性」が求められます。

1. 役員退職金の計算方法

役員退職金の金額は、明確な法律で定められているわけではありませんが、一般的には以下の計算式が目安とされます。

計算式:最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率

特に重要なのが、役員の貢献度を数値化した**「功績倍率」**です。

  • 功績倍率とは?
    • 功績倍率は、役員が会社にどれだけ貢献したかを示す指標です。
    • 一般的には1.0~3.0程度が目安とされています。
    • 3.0といった高い倍率が適用されるのは、会社の経営を牽引し、大きな業績向上や上場、大規模なM&A(企業の合併・買収)などを成功させた、代表取締役や社長といった経営の中心を担った役員の場合です。

役員退職金が税務上の「損金」として認められるためには、この功績倍率を含めた金額が「不当に高額でないこと」が非常に重要です。同業他社の相場や在任中の報酬などを参考に、客観的に妥当な金額を設定する必要があります。

2. 退職金の非課税金額(退職所得控除)について

役員が受け取る退職金には、所得税と住民税が課税されます。しかし、その計算には、退職後の生活資金に配慮した**「退職所得控除」**という優遇措置があります。これにより、退職金の一部が非課税となります。

退職所得控除額の計算式:

  • 勤続20年以下:40万円 × 勤続年数
  • 勤続20年超:800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20年)

(例)勤続年数25年の場合

  • 800万円 + 70万円 × (25年 - 20年) = 800万円 + 350万円 = 1,150万円

この例では、1,150万円までは所得税がかかりません。

さらに、控除額を引いた残りの金額も、半分だけが課税対象となります(1/2課税)。これにより、退職金の税負担は大幅に軽減されます。

課税対象となる退職所得の計算式:

  • (退職金の総額 - 退職所得控除額) × 1/2

3. まとめ

役員退職金は、会社にとっては損金算入による節税メリット、役員個人にとっては税制上の優遇措置という大きなメリットがあります。しかし、適正な金額を設定しないと税務上の問題が生じる可能性があるため、事前に専門家である税理士に相談することが重要です。

投稿者プロフィール

井上 貴文
井上 貴文
代表取締役 CEO
滋賀大学卒業後、大手メガバンクを経て地方銀行で支店長、本店営業第一部長、法人業務部長兼地方創生支援室長等を歴任、退職後に不動産保有法人を設立、M&Aによる売却と購入を経験。
神戸大学大学院経営学研究科修了(MBA)
神戸大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)
専門は中小企業金融 / 日本金融学会会員 / 宅地建物取引士