不動産M&Aは、事業承継や節税、ポートフォリオ最適化など、多様な目的で活用される戦略的な手法です。しかし、一般的な不動産売買と異なり、会社の株式を対象とするため、オーナー様のM&A後の立ち位置や、保有する株式の「持株比率」が非常に重要な意味を持ちます。特に未上場の不動産会社の場合、この持株比率を巡る判断が、オーナー様の将来に大きな影響を及ぼすことをご存知でしょうか?
「持株比率」が明暗を分けるM&A後の経営権とオーナーの未来
不動産M&Aにおいて、ご自身の会社の株式をどのくらいの割合で売却するかは、M&A後の経営への関与度合い、そしてオーナー様の**「出口戦略」**に直結します。
例えば、株式の過半数を売却すれば、経営権は基本的に買い手側に移ります。事業の経営は買い手任せとなり、オーナー様は経営の重責から解放されるメリットがあります。一方で、事業への影響力は失われます。
もし、一部の株式を残し、少数株主として会社に留まる選択をした場合、どのような未来が待っているでしょうか。
- 継続的なリターンへの期待: 会社がM&A後に成長すれば、将来的な追加売却時に高い売却益を得られたり、安定した配当収入を期待できるかもしれません。
- 事業への限定的な関与: 顧問やアドバイザーとして、これまでの経験やノウハウを提供し、事業に間接的に関わり続けられる可能性もあります。
しかし、少数株主として残ることには、注意すべき大きなデメリットも潜んでいます。最も重要な点は、経営権を失うことで、会社の意思決定にほとんど関与できなくなることです。たとえご自身の意に沿わない経営方針が打ち出されても、それを止める術はありません。会社の利益が配当ではなく、役員報酬や内部留保に回されるなど、少数株主にとって不利益な判断がなされるリスクもゼロではないのです。
未上場株式の厳しい現実:なぜ「換金しにくい」のか?
上場企業の株式とは異なり、未上場企業の株式は**「流動性」が極めて低い**という大きな特徴があります。これは、売却したい時に買い手がすぐに見つかる市場がないことを意味します。
特に不動産をメイン事業とする未上場会社の場合、その株式は以下のような理由でさらに換金が困難になります。
- 買い手の限定性: 未上場株式は、証券取引所のような公開された市場がなく、買い手を探すのが非常に困難です。買い手は同業他社やプライベートエクイティファンド、または会社内部の関係者などに限られることが多く、選択肢が極めて狭まります。
- 価格形成の不透明性: 公開市場がないため、客観的な株価が存在せず、売買価格は個別の交渉に委ねられます。買い手が少なければ、買い叩かれる可能性も高まります。
- 綿密なデューデリジェンス: 買い手側は、潜在的なリスクを避けるため、会社の財務、法務、不動産の状態など、多岐にわたる詳細な調査(デューデリジェンス)を行います。これには時間とコストがかかり、調査結果次第では当初の評価額が下がることも珍しくありません。
- 不動産市況の影響: 会社の資産の大半が不動産であるため、将来的に不動産市況が低迷すれば、会社の価値、ひいては株式の価値も大きく下落するリスクがあります。
これらの理由から、「株式を売却できるタイミング」は、決していつでも訪れるものではありません。 会社の業績、不動産市況、経済全体など、外部環境が整った「売り時」を逃してしまうと、将来的に希望する価格で売却できなくなったり、最悪の場合、全く買い手が見つからなくなったりするリスクが現実のものとなるのです。
「少数株式」はさらに厄介?より換金しにくい現実
上記で述べた未上場株式の換金性の低さは、特に少数株式において顕著になります。
大株主であれば、会社全体の経営権に関心を持つ買い手が見つかる可能性はありますが、少数株式の場合、買い手にとっての魅力はさらに薄れます。経営権がないため、会社の意思決定に影響を与えることもできず、純粋な投資対象としての魅力も限定的です。結果として、**「より一層買い手が見つかりにくい」「買い叩かれる可能性が極めて高い」**という厳しい現実に直面することになります。
また、仮に売却できたとしても、会社の情報が十分に開示されない中で、その価値を客観的に判断することは困難です。長年保有し続けても、最終的に現金化できず、相続時に多額の相続税評価額の源となり、納税資金に困るといった事態に陥るリスクも十分に考えられます。
後悔しないための「出口戦略」:今から専門家へ相談を
不動産M&Aにおける株式の持株比率の判断、そして未上場株式の売却は、オーナー様の将来に直結する非常に重要な決断です。特に複数の株主がいる場合、各株主の思惑が絡み合い、全員の合意形成が困難になるケースも少なくありません。
「いつかは売却したい」と考えているのであれば、会社の経営状況や不動産市況が良い「売却できるタイミング」を逃さないことが何よりも重要です。
ご自身の「理想の未来」を描き、それを実現するための最適な**「出口戦略」**を練るためには、M&Aの専門知識と経験を持つプロフェッショナル(M&A仲介会社、税理士、弁護士など)のサポートが不可欠です。彼らと共に、ご自身の会社の価値を正確に把握し、最良のM&Aの形を見つけるための第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
このコラムが、未上場の不動産会社の株式オーナーの皆様にとって、ご自身の未来を考える一助となれば幸いです。
投稿者プロフィール

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代表取締役 CEO
滋賀大学卒業後、大手メガバンクを経て地方銀行で支店長、本店営業第一部長、法人業務部長兼地方創生支援室長等を歴任、退職後に不動産保有法人を設立、M&Aによる売却と購入を経験。
神戸大学大学院経営学研究科修了(MBA)
神戸大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)
専門は中小企業金融 / 日本金融学会会員 / 宅地建物取引士
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