私たちが住宅を購入する際、銀行から住宅ローンを借りることが一般的です。その金利や融資の審査基準は、一見すると各銀行の判断で決まっているように思えますが、実はその背後には、スイスのバーゼルから発せられる国際的なルール、「バーゼル規制」が深く関わっています。

1. リスク・アセットという考え方

バーゼル規制の核心は、銀行の経営を健全に保つために、リスクの大きさに見合った自己資本を持つことを義務付ける点にあります。この「リスクの大きさ」を測る尺度が「リスク・アセット」です。

リスク・アセットとは、銀行が保有するさまざまな資産(貸付金、有価証券など)を、そのリスクの度合いに応じて重み付けして計算したものです。例えば、安全な国債はリスクが低いとみなされ重み付けが小さくなる一方、経営が不安定な企業への融資はリスクが高いとみなされ重み付けが大きくなります。

バーゼル規制では、このリスク・アセットの合計額に対して、一定比率以上の自己資本を保有することが求められます。つまり、リスクの高い資産を多く持つ銀行は、より多くの自己資本が必要になるのです。


2. 不動産融資のリスク重み付け

では、不動産融資はどのように評価されるのでしょうか?

銀行にとって、不動産融資は重要な業務ですが、そのリスクは一様ではありません。例えば、住宅ローンと商業用不動産開発のプロジェクトでは、リスクの性質も大きさも異なります。

バーゼル規制では、不動産の種類や融資の条件に応じて、異なるリスクの重み付けが設定されています。一般的に、安定した収益が見込める居住用不動産(住宅ローン)は比較的リスクが低いとみなされ、リスク・アセットへの重み付けは低めです。これにより、銀行は比較的少ない自己資本で融資を行うことができます。

一方、景気変動の影響を受けやすい商業用不動産や開発プロジェクトへの融資は、居住用不動産に比べてリスクが高いと評価される傾向にあります。そのため、銀行はより多くの自己資本を準備しなければなりません。


3. 私たちの生活への影響

このルールは、銀行の経営だけでなく、私たち個人の生活や不動産市場全体にも影響を与えます。

  • 融資の受けやすさ: 銀行は、自己資本効率(少ない自己資本でどれだけ収益を上げられるか)を重視するため、リスクの重み付けが低い住宅ローンには積極的に融資を行う傾向があります。
  • 金利への影響: リスクの高い不動産融資に対しては、より多くの自己資本を確保する必要があるため、そのコストを金利に上乗せすることが考えられます。

バーゼル規制は、銀行の無謀なリスクテイクを抑制し、金融システムを安定させるための「安全装置」です。その結果、銀行は健全な経営を維持し、私たちが安心して預金できる環境が保たれます。同時に、その規制が、どのような不動産に資金が流れやすいか、あるいは流れにくいかを決定する要因の一つとなっているのです。

このように、バーゼル規制は遠い国際会議で決められたルールでありながら、私たちの身近な不動産市場や住宅ローンにも深く関わる、見えないけれど力強い「金融のルール」なのです。

投稿者プロフィール

松謙志郎
松謙志郎
アドバイザー
神戸学院大学卒業後、大手不動産会社で東京勤務、不動産仲介業務にあたる。
その後、実家の不動産会社で勤務した後に独立、不動産仲介業務を行う。
宅地建物取引士 / 管理業務主任者 / 行政書士