「法人で不動産を購入したい」と考えたとき、「住宅ローンは使えるのか?」と疑問に思う経営者の方もいるかもしれません。

結論から言うと、法人が個人向けの「住宅ローン」を借りることはできません。

住宅ローンは、個人が居住用のマイホームを購入するための商品です。法人には「居住」という概念がないため、法人が不動産を取得する際は、事業性資金としての融資を利用する必要があります。

この記事では、法人が不動産を購入する際に利用できる主な融資の種類と、その特徴、審査のポイントを解説します。


1. 融資の種類:購入目的で選ぶ3つのルート

法人が不動産を購入する際に利用する融資は、主に以下の3つに分けられます。購入する不動産の**「目的」**によって、適した融資の種類を選びましょう。

① 不動産投資ローン(アパートローンなど)

  • 目的: 賃貸経営による収益物件(アパート、マンション、オフィスビルなど)の購入・建築資金。
  • 特徴: 返済の原資を物件から得られる家賃収入と見なします。そのため、物件の収益性が重視されます。
  • 審査ポイント:
    • 物件の収益性(利回り):空室率などを加味した事業計画。
    • 法人の実績:不動産賃貸事業の経験や安定性。

② プロパー融資(事業性融資)

  • 目的: 自社ビル、工場、営業所など、自社で使用する事業用不動産の購入。
  • 特徴: 特定の商品パッケージではなく、金融機関と法人との個別の取引に基づいた融資です。
  • 審査ポイント:
    • 法人の信用力:過去の取引実績、決算内容(特に自己資本比率やキャッシュフロー)。
    • 事業計画の妥当性:その不動産が事業にどう貢献するのか、事業の将来性。

③ 不動産担保ローン

  • 目的: 事業資金全般(不動産購入資金、運転資金など)。資金使途が比較的自由です。
  • 特徴: 購入する不動産、またはすでに所有している不動産を担保として差し入れて融資を受けます。
  • 審査ポイント:
    • 担保評価額:不動産の市場価値が最も重要視されます。
    • 法人の返済能力:決算内容や資金繰りの安定性。

2. 法人融資を受ける際の重要な注意点

法人として融資を受ける際には、個人が住宅ローンを組む場合とは異なるリスクや条件があります。

🚨 1. 代表者の「連帯保証」は原則必要

多くの金融機関では、法人への融資の条件として、法人代表者による連帯保証を求めてきます。これは、法人が返済できなくなった場合、代表者個人が残債の全責任を負うことを意味します。個人保証の解除(保証ガイドラインの活用)を目指すことも可能ですが、実績や担保の提供が必要となることが一般的です。

⚖️ 2. 法人の「信用力」が問われる

融資審査では、法人の信用力が最も重要です。以下の点をクリアしていることが融資獲得の鍵となります。

  • 安定した業歴(一般的に2年以上が目安)
  • 直近の決算内容(黒字であること、自己資本比率の健全性)
  • 資金使途の明確性返済計画の実現可能性

💰 3. 不動産取得税などのコストは発生する

不動産M&Aとは異なり、法人として直接不動産を購入する場合、通常の不動産取引と同様に、不動産取得税登録免許税などの諸費用が発生します。これらの初期コストも融資の計画に含める必要があります。


まとめ

法人が不動産を購入する際の融資は、単に「借りられるか」だけでなく、「その不動産を何に使うか」によって選択肢が変わってきます。

目的に合った融資を選び、しっかりとした事業計画と決算書をもって金融機関に臨むことが、法人による不動産取得成功への第一歩となるでしょう。

投稿者プロフィール

井上 貴文
井上 貴文
代表取締役 CEO
滋賀大学卒業後、大手メガバンクを経て地方銀行で支店長、本店営業第一部長、法人業務部長兼地方創生支援室長等を歴任、退職後に不動産保有法人を設立、M&Aによる売却と購入を経験。
神戸大学大学院経営学研究科修了(MBA)
神戸大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)
専門は中小企業金融 / 日本金融学会会員 / 宅地建物取引士