不動産投資や事業展開において、誰もが求めるのが「良い立地」の物件です。しかし、実際に市場に目を向けても、条件の良い不動産はなかなか見つからない、という経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

「良い立地」の不動産が、一般的な市場にほとんど出回らないのには、明確な理由があります。今回は、その背景にある「オーナーの心理」と「市場の構造」について解説します。

1. オーナーは「売る必要がない」から手放さない

「良い立地」の不動産を保有しているオーナーは、その物件を手放す積極的な理由がないことがほとんどです。

  • 安定した収益と資産価値の上昇期待: 良い立地の不動産は、テナント需要が旺盛で空室リスクが低く、安定した賃料収入(インカムゲイン)をもたらします。さらに、そのエリアの将来性や地価の堅調な推移から、長期的な資産価値の上昇(キャピタルゲイン)も期待できます。両方のメリットを享受できるため、「今売る」という判断に至りにくいのです。
  • 希少性の高さ: 「良い立地」の土地は、供給が限られており、新たな創出は困難です。一度手放すと、同等かそれ以上の条件の物件を再取得するのが極めて難しいという認識が、オーナーの売却意欲を減退させます。
  • 売却に伴うコストと税負担: 不動産の売却には、仲介手数料、測量費用、登記費用など、様々なコストが発生します。特に、長年保有して多額の含み益を抱えている場合、その売却益には高額な譲渡所得税が課せられます。こうしたコストや税負担を考えれば、無理に手放すよりは保有し続ける方が賢明だと判断されがちです。
  • 相続・事業承継対策: 優良な不動産は、将来の相続や事業承継における重要な資産となります。安定した収益は、相続税の納税資金計画にも組み込まれることがあり、安易な売却は行われません。

2. 「情報がクローズドな市場」で取引されるから

たとえ売却の検討が始まったとしても、良い立地の不動産は、一般の不動産情報サイトやチラシに掲載されることは稀です。

  • 水面下の情報流通: 本当に優良な物件は、市場に出る前に、既存の不動産投資家、資産家、大手デベロッパー、あるいは特定の機関投資家などの間で、信頼関係のある専門家(証券会社、金融機関、M&Aアドバイザーなど)を通じて、非公開で情報が流通します。
  • 「事業の譲渡」として検討されるケース: 特に法人で保有されている不動産の場合、単体で売却されるよりも、その不動産を保有する法人ごと「事業の譲渡」としてM&Aの対象となることが少なくありません。この場合、不動産の売買というよりはM&Aのプロセスで情報が管理されるため、一般の不動産市場には現れません。

まとめ

「良い立地の不動産」が市場に出回らないのは、オーナーにとって手放す合理的な理由が少なく、かつ、仮に売却されるとしても、水面下のクローズドなチャネルで情報が流通するからです。

このような優良な「出し物」にアクセスするには、従来の不動産取引の枠を超えたアプローチが必要となります。
次章では、優良な不動産を保有し続けるオーナーが直面する、意外なリスクについて解説します。

投稿者プロフィール

岡本尚徳
岡本尚徳
執行役員 COO
関西大学卒業後、大手不動産仲介会社にて不動産仲介業務を経験、その後一般事業法人の不動産部門にて収益物件の購入、開発、管理等を担当。
また不動産ファンドでのファンド運営にかかわり、ゲームソフト会社の関連不動産会社の代表を経験。自身でも不動産管理会社、不動産仲介会社を経営するなど不動産に関する業務全般に精通。
宅地建物取引士 / 公認不動産コンサルティングマスター / 関西大学不動産会副幹事長