不動産賃貸業を営む上で、消費税の取り扱いは非常に複雑で、その適用を誤ると予期せぬ納税義務が発生する可能性があります。特に、居住用と事業用で大きく異なる扱いとなるため、しっかりと理解しておくことが重要です。
1. 賃貸物件の用途による消費税の適用
不動産賃貸業における消費税の課税・非課税は、まず賃貸物件の用途によって決まります。
居住用物件は原則「非課税」
アパート、マンション、戸建てといった住宅の家賃は、原則として消費税が非課税です。これは、国民生活に不可欠な住居の提供に対する社会政策的な配慮によるものです。家賃だけでなく、礼金、敷金(返還されない部分)、共益費、管理費、更新料なども、通常必要と認められる範囲であれば非課税となります。
ただし、例外もあります。例えば、貸付期間が1ヶ月未満のウィークリーマンションや民泊、旅館業法に規定される施設の貸付けは、居住用であっても課税対象となります。
事業用物件は原則「課税対象」
一方、事務所、店舗、貸倉庫、工場などの事業用物件の賃料は、原則として消費税の課税対象です。事業用物件の場合、土地と建物を一体で貸し付ける際には、土地部分の賃料も含めて課税対象となります。ただし、土地のみの貸付けは非課税です。また、事業用物件の賃貸に伴う礼金や保証金のうち、返還されない償却費や敷引金なども課税対象となる場合があります。
住居兼事務所の場合は「按分計算」
住居と事業を兼ねた物件、例えば店舗付き住宅のような場合は、契約書に「居住兼事務所用」と明記し、居住スペースと事務所スペースの床面積で賃料を按分して計算します。事業用の部分のみが課税対象となります。
駐車場の取り扱い
駐車場代は基本的に消費税の課税対象ですが、以下のすべての条件を満たす場合は非課税となることがあります。
- 賃貸物件に付随している駐車場であること
- 1戸あたり1台分の駐車場が確保されていること
- 家賃と駐車場代が明確に区分されていないこと(家賃に含まれている場合など)
2. 貸主の年間課税売上高による納税義務
不動産賃貸業を営む事業者は、その年間課税売上高によって消費税の納税義務があるかどうかが決まります。
免税事業者:納税義務なし
前々年の課税売上高が1,000万円以下の事業者は、消費税の納税義務が免除され「免税事業者」となります。新規開業した年やその翌年は、原則として納税義務が免除されます。
ここで注意したいのが、居住用物件の賃料はそもそも非課税売上であるため、たとえ居住用賃貸収入が1,000万円を超えても、それだけで消費税が課されることはありません。しかし、居住用物件と事業用物件の両方から収入がある場合、事業用の収入部分が1,000万円を超えると課税事業者となります。
課税事業者:納税義務あり
前々年の課税売上高が1,000万円を超える事業者は、消費税の納税義務が発生し「課税事業者」となります。課税事業者は、売上にかかる消費税から仕入れにかかった消費税を差し引いて納税額を計算します(仕入税額控除)。
3. 消費税の計算方法
課税事業者の消費税計算方法には、主に「原則課税方式」と「簡易課税方式」の2種類があります。
原則課税方式
これは、課税売上にかかる消費税額から、実際に課税仕入れにかかった消費税額を差し引いて納税額を計算する方法です。実際に支払った消費税額を細かく計算するため手間はかかりますが、その分、正確な納税額を算出できます。
簡易課税方式
基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が選択できる制度です。課税売上にかかる消費税額に、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を乗じて仕入れにかかった消費税額を概算で算出します。不動産賃貸業(第五種事業)の**みなし仕入率は50%**です。
計算が簡単になるメリットがある一方で、実際に支払った仕入れの消費税がみなし仕入率で計算した額より多い場合でも、その差額は控除されません。特に建物の建築など多額の消費税を支払った年は、原則課税の方が有利になる場合があります。簡易課税を選択するには、事前に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があり、一度選択すると2年間は変更できません。
4. インボイス制度(適格請求書等保存方式)との関連
2023年10月1日から始まったインボイス制度は、不動産賃貸業にも影響を与えています。
事業用物件の賃貸の場合
借主が消費税の課税事業者であれば、支払った家賃の消費税について仕入税額控除を受けるために、貸主から**「適格請求書(インボイス)」の交付を受ける必要**があります。適格請求書発行事業者である貸主は、借主からの求めに応じて適格請求書を交付する義務を負います。
もし貸主が免税事業者の場合、適格請求書を発行できないため、借主は仕入税額控除を受けられなくなります。このため、免税事業者の貸主は、借主との関係や自身の事業戦略に応じて、課税事業者への登録を検討する必要が出てくる場合があります。
居住用物件の賃貸の場合
居住用物件の家賃は非課税であるため、インボイス制度の対象外です。したがって、適格請求書を発行する必要はありません。
不動産賃貸業における消費税の取り扱いは、物件の用途や貸主の状況、そして税制改正によって常に変動する可能性があります。ご自身の状況に合わせた正確な判断をするためには、税理士などの専門家への相談をおすすめします。
投稿者プロフィール

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アドバイザー
神戸学院大学卒業後、大手不動産会社で東京勤務、不動産仲介業務にあたる。
その後、実家の不動産会社で勤務した後に独立、不動産仲介業務を行う。
宅地建物取引士 / 管理業務主任者 / 行政書士
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