「良い立地の不動産」は、安定した収益をもたらし、資産価値の向上も期待できる、まさに「優良資産」と認識されています。しかし、その優良さゆえに、オーナー様が見過ごしがちな「潜在的なリスク」や「問題点」が存在することも事実です。

特に、長年にわたり好立地の不動産を複数保有されているオーナー様が、相続や事業承継のタイミングで直面する可能性のあるリスクについて解説します。

1. 想定外に高額な「税負担」のリスク

  • 巨額な譲渡所得税の発生: 好立地の不動産は、取得時からの期間が長く、かつ地価上昇の恩恵を受けているため、含み益が多額に上るケースがほとんどです。いざ売却する際には、この多額の含み益に対して譲渡所得税が課税されます。税率は約20%(個人の長期譲渡の場合)ですが、利益額が大きいため、納税額も想像以上に高額になる可能性があります。
  • 相続税の納税資金問題: 不動産は、現金のように簡単に分割できない「現物資産」です。好立地の不動産は相続税評価額も高くなりがちで、相続税の総額が非常に高額になることがあります。相続人がこの高額な相続税を納税するための現金が不足すると、「納税資金問題」に直面します。この問題を解決するために、慌てて不動産を売却しようとすると、足元を見られたり、希望通りの価格で売却できなかったりするリスクが高まります。

2. 遺産分割を巡る「相続トラブル」のリスク

  • 不公平感による対立: 複数の相続人がいる場合、不動産は預貯金のように公平に分割することが困難です。好立地の不動産一つが、他の全ての資産を上回る評価になることもあります。誰がどの不動産を継ぐのか、あるいは売却して現金化するのかで意見が対立しやすく、遺産分割協議が泥沼化する原因となります。
  • 代償分割の困難: 特定の相続人が不動産を引き継ぐ場合、他の相続人にはその評価額に応じた現金を支払う「代償分割」が行われます。しかし、不動産の評価額が高額すぎると、代償金を支払う側の相続人がその資金を捻出できない、という事態も起こり得ます。
  • 「共有名義」がもたらす将来リスク: 遺産分割がまとまらず、複数の相続人で不動産を「共有名義」にするケースもあります。しかし、共有名義は将来的な売却、大規模修繕、あるいは賃貸管理の意思決定において、共有者全員の合意が必要となるため、トラブルの温床となりやすい重大なリスクを抱えています。

3. 「流動性」と「出口戦略」の欠如リスク

  • 売却の難易度: 高額な優良物件は買い手が限定されるため、売却を急ぐと、適切な買い手が見つからず、売却に時間がかかったり、希望価格での売却が困難になったりすることがあります。特に相続税の納税期限(相続開始から10ヶ月以内)が迫っている状況では、時間的制約が大きな足枷となります。
  • 最適な選択肢の見落とし: 「不動産を売却する」という発想に囚われすぎると、法人化、資産管理会社の活用、信託、そして「不動産を保有する法人ごとの売却(不動産M&A)」といった、税務上や管理上、より有利な他の選択肢を見落としてしまうリスクがあります。

まとめ

好立地の不動産は確かに優良な資産ですが、特に相続や事業承継の局面では、高額な税負担、遺産分割のトラブル、そして流動性の問題といった見過ごされがちなリスクを内包しています。

これらのリスクを回避し、オーナー様やご家族にとって最適な形で資産を承継・処分するためには、早期に専門家と連携し、多角的な視点から戦略を立てることが極めて重要です。
次章では、この課題に対し、不動産M&Aがどのような解決策をもたらすのかを解説します。

投稿者プロフィール

井上 貴文
井上 貴文
代表取締役 CEO
滋賀大学卒業後、大手メガバンクを経て地方銀行で支店長、本店営業第一部長、法人業務部長兼地方創生支援室長等を歴任、退職後に不動産保有法人を設立、M&Aによる売却と購入を経験。
神戸大学大学院経営学研究科修了(MBA)
神戸大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)
専門は中小企業金融 / 日本金融学会会員 / 宅地建物取引士