中小企業経営者の皆様、事業承継や事業拡大を目的としたM&A(企業の合併・買収)を検討されていますか?M&Aは、企業が抱える課題を解決し、新たな成長機会を獲得するための強力な手段です。しかし、M&Aには簿外債務や偶発債務といった潜在的なリスクも伴います。これらのリスクに備え、M&Aをより安全に進めるための心強い味方となるのが、「中小企業事業再編投資損失準備金制度」です。
1. 制度の概要:リスクに備える「保険」としての準備金
この制度は、中小企業がM&Aで取得した株式等の価値が将来的に下落し、損失が発生するリスクに備えるためのものです。具体的には、M&Aによって取得した株式等の取得価額の一部(最大70%)を「損失準備金」として積み立てることができ、その積立額を株式を取得した事業年度に損金として算入できます。これにより、M&A実行時の税負担が軽減され、手元にキャッシュを残すことが可能になります。
2. 課税の繰り延べ:時間の猶予がもたらすメリット
重要なのは、この制度が「税金の免除」ではなく「課税の繰り延べ( deferral of tax )」であるという点です。積み立てた準備金は、5年間の据置期間を経た後、5年間で均等に取り崩し、企業の益金として計上されます。つまり、税金の支払いを将来に延期できるのです。この「時間」の猶予は、M&A後の事業統合(PMI)や新規事業への投資に資金を充てるための重要なメリットとなります。
3. 2024年度税制改正でさらに使いやすく
2024年度の税制改正により、この制度はさらに拡充され、活用の幅が広がりました。従来の制度に加え、中堅企業も対象となり、大規模なM&A(最大100億円まで)にも対応する枠が新設されました。また、一定の要件を満たせば、損金算入割合が90%にまで引き上げられるケースも導入されています。これは、成長意欲の高い中小・中堅企業にとって、より積極的にM&Aを推進するための強力な後押しとなるでしょう。
4. 制度活用のポイントと注意点
この制度を適用するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。特に重要なのが、M&Aの前に「経営力向上計画」の認定を受けることです。この計画には、M&Aの目的やデューデリジェンス(事業承継等事前調査)の内容を詳細に記載する必要があります。
M&Aは単なる企業の売買ではなく、新たな価値を創造する「経営戦略」です。この制度は、その戦略を税務面から強力にサポートしてくれます。複雑な手続きや要件もありますので、検討される際は必ず専門家(税理士やM&Aアドバイザー)に相談し、自社にとって最適な形で活用することをお勧めします。
M&Aを成功に導くためにも、リスクに備えるためのこの制度をぜひご検討ください。
投稿者プロフィール

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代表取締役 CEO
滋賀大学卒業後、大手メガバンクを経て地方銀行で支店長、本店営業第一部長、法人業務部長兼地方創生支援室長等を歴任、退職後に不動産保有法人を設立、M&Aによる売却と購入を経験。
神戸大学大学院経営学研究科修了(MBA)
神戸大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)
専門は中小企業金融 / 日本金融学会会員 / 宅地建物取引士
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