「不動産M&A」では、不動産を保有している会社の「株式」を取得することで、間接的にその不動産を支配するという手法が用いられています。

この「株式取得」による不動産M&Aの中でも、特に注意が必要なのが「未上場株式」を扱うケースです。上場企業と異なり、未上場企業には特有のリスクや留意点が存在します。
これらの「落とし穴」を事前に理解し、適切に対処することが、M&A成功への道を切り拓きます。

本稿では、不動産M&Aを円滑に進めるために、私たちが考える未上場株式に関する6つの重要ポイントを解説いたします。


1. 「譲渡制限株式」のハードルを見逃すな

未上場企業の株式の多くには、その流通を制限する「譲渡制限」が設けられています。これは、会社の安定的な経営のために欠かせない仕組みですが、M&Aの場面では、この制限が思わぬ障壁となることがあります。

【注意点】

  • 定款の事前確認が必須: まずは対象会社の定款を確認し、譲渡制限の有無、そして承認機関(取締役会か株主総会か)を正確に把握することが肝心です。承認なく株式譲渡を進めても、会社に対する効力が認められないリスクがあります。
  • 「承認」がM&A成否の分かれ道に: 株主からの譲渡承認が得られなければ、M&A自体がストップしてしまう可能性があります。

【成功のカギ】

  • 主要株主との事前調整が不可欠: 円滑なM&Aのためには、対象会社の主要株主や経営陣と密にコミュニケーションを取り、M&Aの目的やメリットを十分に理解してもらうことが重要です。
  • 契約書に「解除条項」を明記: 万が一、承認が得られなかった場合に備え、「承認が得られなかった場合の契約解除条項」を株式譲渡契約書に明確に記載することで、リスクを軽減できます。

2. 見えにくい「潜在株式」が支配力を左右する

発行済み株式以外に、将来的に株式へと転換される可能性のある「潜在株式」の存在も、未上場M&A特有の注意点です。代表的なものとして、新株予約権や転換社債などがあります。これらが行使されると、買収後の貴社の持ち株比率が希薄化し、当初想定していた支配力が揺らぐ恐れがあります。

【注意点】

  • 法務デューデリジェンスで徹底調査: 新株予約権の有無、その行使価額や行使期間、条件などを法務デューデリジェンスで詳細に確認することが不可欠です。
  • 「希薄化リスク」の正確な試算: 潜在株式が全て行使された場合を想定し、貴社の持株比率がどの程度希薄化するかを正確に試算し、支配権が維持されるかを検証する必要があります。

【成功のカギ】

  • M&A前の交渉・処理を検討: 潜在株式の権利者と事前に交渉し、新株予約権の買い取りや消滅をM&Aの条件とすることで、買収後のリスクを解消できる場合があります。

3. 株主間契約という“見えない合意”に注意

未上場企業では、会社の定款には記載されていないものの、株主間で特別な合意が交わされている「株主間契約」が存在するケースがあります。これらの“見えない合意”は、M&A後の貴社の権利関係や経営方針に大きな影響を及ぼす可能性があります。

【注意点】

  • 隠れた契約の徹底チェック: デューデリジェンスでは、定款だけでなく、過去に締結されたすべての株主間契約や合弁契約、その他株式に関する取り決めを徹底的に確認することが重要です。
  • 株式譲渡に関する制限・義務の確認: これらの契約の中に、株式譲渡を制限する条項や、M&A後に特定の義務を負う可能性のある条項がないかを精査しましょう。

【成功のカギ】

  • 問題点の早期発見と対処: もしM&Aの障害となるような条項が見つかった場合は、早期にその契約の修正や解除、あるいは関係者からの株式取得を検討するなど、適切な対応策を講じることが成功につながります。

4. 少数株主がM&Aの進行を妨げることも

不動産を保有する会社の場合、特定の株主が株式の大部分を保有している一方で、ごく少数の株式しか持たない「少数株主」が存在することがよくあります。貴社が対象会社の全株式取得を目指す場合、この少数株主の存在がM&Aの交渉を難航させる原因となることがあります。

【注意点】

  • 取引全体の停滞リスク: たとえ少数であっても、一人の株主がM&Aに反対することで、取引全体がストップしてしまうリスクがゼロではありません。

【成功のカギ】

  • 丁寧な説明と粘り強い交渉: 少数株主に対してもM&Aのメリットを丁寧に説明し、理解と協力を得るための粘り強い交渉が最も円滑な解決策となります。
  • 「スクイーズアウト」も視野に: どうしても合意が得られない場合の最終手段として、会社法に基づき少数株主から強制的に株式を買い取る「スクイーズアウト(少数株主の強制買取)」の検討も必要となる場合があります。ただし、これには厳格な法的手続きと、「公正な価格」での買取が求められるため、専門家のサポートが不可欠です。

5. 株価評価と「簿外債務」のリスク

未上場株式は市場で取引されないため、その公正な価値を評価することが非常に難しいという特徴があります。さらに、上場企業に比べて情報開示が限定的なため、貸借対照表に計上されていない「簿外債務」や、将来発生するかもしれない「偶発債務」といったリスクが潜んでいる可能性があります。

【注意点】

  • 多角的な評価手法の活用: 公正な株価を算定するためには、複数の評価手法(類似会社比較法、DCF法、純資産法など)を組み合わせ、公認会計士や不動産鑑定士といった専門家による多角的な評価が不可欠です。
  • 環境面含めたデューデリジェンスの徹底: 特に不動産M&Aでは、土壌汚染、アスベスト、建物の瑕疵など、環境面や物理的なリスクに関する徹底したデューデリジェンスが極めて重要です。

【成功のカギ】

  • 契約書に「表明保証」「補償条項」を明記: 売主から対象会社の財務・法務状況に関する「表明保証」を得て、もし保証内容に違反があった場合に売主が補償する「補償条項」を契約書に盛り込むことで、貴社のリスクを大幅に軽減できます。
  • 「エスクロー」の活用も検討: 不安が残るリスクが顕在化するまでの間、買収代金の一部を第三者(エスクロー)に預けておき、リスク顕在化時にそこから補填する仕組みも有効な手段です。

6. 税務の取り扱いは慎重に

株式取得によるM&Aは、不動産そのものの売買とは税務上の取り扱いが異なります。最大のメリットは、原則として不動産取得税や登録免許税がかからない点ですが、他にも注意すべきポイントが存在します。

【注意点】

  • 「みなし譲渡」課税のリスク: 極端に低い対価で株式を譲渡した場合など、特定の条件下では、本来の時価で譲渡があったものとみなされ、意図しない税金が発生する「みなし譲渡」課税のリスクがあります。
  • 売主側の譲渡益課税: 株式の売却益に対しては、売主側で所得税・住民税が課税されます。

【成功のカギ】

  • 税理士による事前シミュレーション: M&A実行前に、経験豊富な税理士による税務シミュレーションとアドバイスを受けることが必須です。これにより、予期せぬ税負担を回避し、最適な税務戦略を構築できます。
  • 国際税務の視点も重要: 複雑な取引や国際的な要素が絡む場合は、国際税務の専門家を含めた戦略構築が不可欠です。

まとめ:未上場株式を制する者が、不動産M&Aを制す

不動産M&Aは、単なる不動産売買とは異なり、未上場株式をめぐる多層的な課題への対応力が問われる、非常に専門性の高い分野です。譲渡制限や潜在株式の確認、少数株主との交渉、隠れた負債や契約上の義務の洗い出しなど、一つ一つのステップに慎重な確認と適切な交渉が不可欠となります。

不動産M&Aパートナーズ株式会社では、貴社の不動産M&Aを成功に導くため、弁護士、公認会計士、税理士、不動産鑑定士といった各分野の専門家と密に連携し、最適なソリューションをご提供いたします。適切な準備と専門家の知見を最大限に活用することで、トラブルを未然に防ぎ、貴社のM&Aの価値を最大化できるよう、全力でサポートさせていただきます。

不動産M&Aに関するご相談は、ぜひ一度、不動産M&Aパートナーズ株式会社までお問い合わせください。

投稿者プロフィール

松謙志郎
松謙志郎
アドバイザー
神戸学院大学卒業後、大手不動産会社で東京勤務、不動産仲介業務にあたる。
その後、実家の不動産会社で勤務した後に独立、不動産仲介業務を行う。
宅地建物取引士 / 管理業務主任者 / 行政書士