1. 劣化対策等級の概要

「劣化対策等級」は、住宅性能表示制度(「住宅の品質確保の促進等に関する法律」、通称「品確法」に基づく)において、建物の耐久性を示す評価項目の一つです。これは、建物がどの程度劣化しにくいように対策されており、大規模な改修工事を必要とせずにどれくらいの期間、構造躯体(骨組み)が健全に持ちこたえられるかを等級で表したものです。

等級の種類と内容:
  • 等級1: 建築基準法で定められた最低限の劣化対策が講じられているレベル。
  • 等級2: 通常想定される自然条件および維持管理の条件の下で、2世代(概ね50年~60年程度) まで大規模な改修工事が不要となるように対策が講じられていることを示します。
  • 等級3: 通常想定される自然条件および維持管理の条件の下で、3世代(概ね75年~90年程度) まで大規模な改修工事が不要となるように対策が講じられていることを示し、最高ランクの対策が施されています。
評価の対象: 主に建物の構造躯体(基礎、柱、梁、壁など)の劣化対策が評価されます。
  • 木造住宅: シロアリ対策、腐朽対策(通気・換気、耐久性の高い木材の使用、防腐処理など)。
  • 鉄筋コンクリート造: 鉄筋のサビ対策(コンクリートのかぶり厚さ、水セメント比、使用するコンクリートの品質など)。
  • 鉄骨造: サビによる劣化を防ぐ対策。

評価方法: 国土交通大臣に登録された第三者機関である「登録住宅性能評価機関」が評価を行います。設計段階の評価(設計住宅性能評価)と、実際の施工段階の評価(建設住宅性能性能評価)があります。

2. 劣化対策等級の変遷

劣化対策等級を含む住宅性能表示制度は、平成12年(2000年)4月1日に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づき、同年10月に本格的な運用が開始されました。

この制度は、住宅の性能を客観的に評価・表示することで、消費者が住宅選びをしやすいように、また事業者には品質向上を促すことを目的として導入されました。劣化対策等級は、この制度が開始された当初から、耐久性を示す主要な評価項目として位置づけられています。

制度開始以降も、社会情勢の変化や技術の進歩、地球温暖化対策への関心の高まりなどを受け、基準の見直しや改正が随時行われています。例えば、省エネルギー性能の評価基準などが追加・強化される中で、劣化対策等級も関連する項目としてその重要性が再認識されてきました。直近では、2022年4月1日や2022年10月にも一部基準の改正が行われています。

3. 劣化対策等級と住宅ローン、投資用ローンとの関係性

劣化対策等級は、住宅ローンの借り入れにおいて以下のようなメリットや影響を及ぼします。

劣化対策等級と住宅ローンとの関係

  • 金利優遇:
    • 多くの金融機関では、劣化対策等級が高い住宅(特に等級3)に対して、住宅ローンの金利優遇を提供しています。これは、耐久性が高く、将来的な大規模修繕のコストが低減されると見込まれるため、金融機関にとって貸し倒れリスクが低いと判断されるためです。
    • 長期優良住宅の認定基準には劣化対策等級3が含まれており、長期優良住宅はさらに手厚い金利優遇の対象となることが多いです。
  • 融資審査への好影響:
    • 劣化対策等級によって建物の品質や耐久性が第三者機関によって客観的に評価されているため、金融機関の融資審査において信頼性が高く、有利に働く可能性があります。特に中古住宅の場合、建物の状態が不明瞭になりがちですが、等級があれば判断材料が増え、スムーズな審査につながります。
  • 担保評価の向上:
    • 住宅ローンの担保となる住宅の評価額は、その耐久性や将来的な資産価値の維持可能性に左右されます。劣化対策等級が高い住宅は、これらの点が評価され、より高い担保評価額がつくことがあります。担保評価が高いほど、より多くの融資を受けられる可能性が高まります。
  • 「フラット35」等の優遇措置:
    • 住宅金融支援機構が提供する長期固定金利型住宅ローン「フラット35」では、住宅性能評価書を取得している住宅に対して、金利の引き下げなど、様々な優遇措置を設けています。劣化対策等級も住宅性能評価の項目の一つであるため、この優遇の対象となることで、より有利な条件でローンを組むことができます。
  • 長期的な返済計画の安心感:
    • 劣化対策等級が高い住宅は、大規模な修繕が必要になるまでの期間が長いため、住宅ローンの返済期間中に予期せぬ多額の修繕費用が発生するリスクが低減されます。これにより、長期的な家計の計画を立てやすくなり、安心してローンを返済できるという心理的なメリットも大きいです。

これらの点から、劣化対策等級は、住宅の長期的な価値だけでなく、住宅ローンの借り入れ条件や返済計画にも直接的・間接的に影響を与える重要な指標となっています。

劣化対策等級と投資用ローンとの関係について

投資用ローンと住宅性能表示は、直接的な関係は薄いですが、間接的に影響を与える可能性はあります。

直接的な関係が薄い理由:

  • 投資用ローン: 主に収益性を重視し、家賃収入や物件の資産価値上昇によるリターンを見込んで組まれるローンです。審査においては、借り手の返済能力に加え、物件の収益性(賃貸需要、利回りなど)が重視されます。
  • 住宅性能表示: 住宅の性能を客観的に評価し、表示する制度です。耐震性、省エネルギー性、維持管理のしやすさなど、住宅そのものの品質や性能を示すものです。主に居住用の住宅において、購入者が安心して質の高い住宅を選べるようにすることが目的です。

間接的な関係が生じる可能性:

  1. 担保評価への影響: 住宅性能表示の等級が高い住宅は、一般的に品質が高く、長期優良住宅などと認定される可能性もあります。これにより、金融機関が担保評価を行う際に、物件の資産価値が安定していると判断され、ローンの審査に好影響を与える可能性がゼロではありません。しかし、投資用ローンの場合は、収益性が評価の主要な要素となるため、性能表示が直接的に金利優遇や融資額に大きく影響することは稀です。
  2. 賃貸需要への影響: 住宅性能表示によって、耐震性や省エネ性、維持管理のしやすさなどが高いと評価された住宅は、入居者にとって魅力的に映る可能性があります。特に、近年は環境意識の高まりから省エネ性能を重視する人も増えており、高評価の物件は賃貸需要が高まり、安定した家賃収入に繋がりやすくなるかもしれません。これは、投資用ローンの返済原資となる収益性の安定に寄与すると考えられます。
  3. 修繕費・維持管理費の抑制: 住宅性能表示で維持管理対策等級などが高い物件は、将来的な修繕費用が抑えられる可能性があります。長期的に安定した収益を確保するためには、修繕費などのランニングコストも重要な要素であり、これがローンの返済計画にも間接的に良い影響を与えることがあります。

結論として、住宅性能表示は投資用ローンの直接的な条件や審査項目になることはほとんどありません。しかし、住宅性能が高い物件は、長期的な資産価値の維持、賃貸需要の確保、ランニングコストの抑制といった面で優位性を持つことがあり、これらが間接的に投資用ローンの安定的な運用に寄与する可能性は考えられます。

投資用ローンをご検討の際は、物件の収益性や立地、築年数、管理状態など、多角的な視点から総合的に判断することが重要です。住宅性能表示は、あくまで物件の「品質」を示す一つの指標として捉えるのが良いでしょう。

投稿者プロフィール

松謙志郎
松謙志郎
アドバイザー
神戸学院大学卒業後、大手不動産会社で東京勤務、不動産仲介業務にあたる。
その後、実家の不動産会社で勤務した後に独立、不動産仲介業務を行う。
宅地建物取引士 / 管理業務主任者 / 行政書士